クリニックの開業資金はいくら必要?費用の内訳や調達方法を解説
「クリニックの開業資金はいくら必要?」
開業を検討されている医師のなかには、このような疑問を持っている方がいるのではないでしょうか。
クリニックの開業資金は、診療科や診療方針などによって変わります。本記事では、クリニック開業資金(概算)、自己資金算出の目安となる診療科ごとで投資を検討するべき設備や医療機器、開業資金の調達方法、開業資金を抑える方法について解説します。
目次
クリニックを開業する際に必要な費用項目
クリニックを開業する際に目安となる費用項目は以下のとおりです。
※地域や開業形態によって、必要になる費用は異なります。
種類 | 項目 | 補足説明 |
---|---|---|
建築費用 | 建設工事費 | 建物本体や付属設備の工事費用。 |
外構工事費 | 庭や塀などの整備費用。 | |
看板費 | 看板の費用。 | |
設計・管理料 | 建物を設計・管理する費用。 | |
自宅工事費 | 医院併用住宅を想定する場合の費用。 | |
土地費用 | 土地 | 土地にかかる費用。 |
土地造成費 | 土地を建築できる状態にするための費用。土地の条件や計画の内容によって大きく異なる。 | |
借地権 | 建物を建てるために地代を払って他人から土地を借りる権利。 | |
機器 | 医療機器 | X線一般撮影装置・超音波画像診断装置・心電計・内視鏡検査機器・MRI・CT・電子カルテなど。 |
介護機器 | 車椅子・浴槽・入浴補助器具・自動排泄処理装置など。 | |
事務機器・備品 | 診察机・診察台・待合ソファー・患者用チェア・ロッカー・キャビネット・カーテンなど。 | |
その他 | 上記以外の物品。 | |
創業費 | 不動産取得税 | 不動産を取得した場合に課税される税。 |
登記料 | 不動産の所有権を登記する場合に発生する費用。 | |
抵当権設定登記料 | 金融機関が不動産に対して設定する権利を登記する際に発生する費用。 | |
不動産仲介手数料 | 不動産仲介に対して発生する手数料。 | |
行事費用 | 開業前の広告宣伝費(WEBサイト制作費・チラシ・内覧会・採用求人費など)。 | |
金利(建物・土地) | 開業までの借入金額に対して発生する利息(利子)。 | |
保証金・敷金 | 不動産契約に準じて発生する保証金もしくは敷金の費用。 | |
医師会入会金 | 医師会の加入費用。費用は医師会により異なる場合がある。 | |
営業権 | 引き継ぐ患者さんがもたらす収益など、目に見えない資産としての対価。 | |
開業前賃料 | 開業までに発生する賃料。 | |
創業費その他 | 上記以外の費用。 | |
開業時運転資金 | 開業する際に手元に準備しておくべき資金(診療報酬入金までの人件費・家賃など)。 |
上記に加え、開業にあたりコンサルタントを利用した場合は、その費用もかかる可能性があります。
クリニック開業資金(概算)
クリニックの開業資金(概算)について解説します。
同じ診療科目であっても条件によって開業資金は変化します。そのため、開業資金(概算)を算出するには、条件を指定して事業シミュレーションを行う必要があります。
以下の条件で、開業資金をシミュレーションした場合、概算で「8,670万円」の資金調達が必要となります。
- 内科
- テナント開業(ビルやショッピングモールなどの建物にテナントとして入居して開業すること)
- 東京都
- 35坪(坪単価:15千円(税別))
項目 | 概算費用 |
---|---|
建設工事費 | 3,080万円 |
医療機器 | 2,200万円 |
事務機器備品 | 220万円 |
不動産仲介手数料 | 58万円 |
行事費用 | 220万円 |
保証金敷金 | 525万円 |
医師会入会金 | 200万円 |
開業前賃料3ヵ月分 | 173万円 |
開業時運転資金 | 1,994万円 |
繰り返しになりますが、開業資金は開業地や診療科目、診療内容などによって異なるため、あくまで概算費用として把握しておきましょう。
クリニック開業における診療科別の標準的な設備と機器
クリニック開業時に投資を検討すべき設備と機器は、診療科によって異なります。
クリニックの規模や方針、患者さんのニーズによっても導入する設備や機器は大きく異なるため、開業資金を算出する目安として、診療科ごとの標準的な設備と機器を確認していきましょう。
- 内科
- 循環器内科
- 呼吸器内科
- 消化器内科
- 糖尿病内科・内分泌内科
- 泌尿器科
- 精神科・心療内科
- 脳神経外科・脳神経内科
- 皮膚科
- 眼科
- 耳鼻いんこう科
- 整形外科
- 小児科
- 産科・婦人科
内科
内科では、心電計や血液検査機器などの導入が想定されます。また、一般内科の特徴は「風邪・発熱」がおもな症状のため、発熱患者との導線を分けるための隔離室があるとよいでしょう。
循環器内科
循環器内科の場合、おもに生活習慣病や心臓病、大動脈やその他の血管疾患などを診療します。
そのため、心電計や24時間心電計(ホルタ心電計)、心エコーが検査できる超音波画像診断装置などの導入が想定されます。
検査機器の数やクリニックの規模によって検査室を設けるケースもあるでしょう。
呼吸器内科
呼吸器内科では、呼吸器疾患を診断するためにスパイロメータや呼気NO測定機、CT検査装置を導入するケースがあります。
とくにCT検査装置を導入する場合、大きな設置スペースが必要になるため、その分の建築費や改築費がかかる場合があるでしょう。
また、他の医療機器に比べて導入費用や保守費用が比較的高額なため、その分の予算の確保が求められるケースがあります。
消化器内科
消化器内科では、消化器疾患を診断するために内視鏡検査機器の導入が一般的です。内視鏡検査機器を導入する場合、内視鏡検査のための検査室や回復室、複数のトイレが必要になる場合があるでしょう。
そのため、その分の建築費や改築費などが発生するケースがあります。また、内視鏡検査機器は他の医療機器に比べて導入費用や機器を維持するためのランニングコストが高くなります。あらかじめ予算を確保しておくとよいでしょう。
糖尿病内科・内分泌内科
糖尿病内科・内分泌内科では、採血・診察・栄養指導・体重測定・尿検査などで患者さんが院内に滞在する時間が長くなる傾向があります。
そのため、患者さんがくつろぎやすいように広めの待合室などがあるとよいでしょう。また、糖尿病内科では、迅速に検査結果を出すために必要な血液検査機器の導入も想定されます。
泌尿器科
泌尿器科では、泌尿器疾患を診断するために尿分析装置や膀胱用超音波画像診断装置、尿流量測定装置や膀胱鏡などの導入が想定されます。
精神科・心療内科
精神科・心療内科では、患者さんのプライバシー配慮のため、複数の防音の診察室(カウンセリングルーム)を設けることが望ましいでしょう。
脳機能に関連した精神症状を診断するために脳波計を導入する場合は、高額な費用が発生します。
脳神経外科・内科
脳神経外科・内科の場合、脳疾患の診断をするためにCTやMRIなどの大型な機器の導入が想定されます。
また、設置スペースも必要になるため、その分の建築費・改築費がかかります。他の診療科と比べると、導入費用やメンテナンス費用も高額になるでしょう。
皮膚科
皮膚科では、皮膚の治療をおこなうための医療機器の導入が想定されます。脱毛やシミ取りなどの自由診療を行う場合には、レーザー機器などを導入するケースもあります。
また、処置室・施術室・パウダールームなどの設置や、施術者の確保をするための費用もかかってくるでしょう。
眼科
眼科では、眼圧計・眼底カメラ・視力計・高精度モニターや、眼科診療に特化した電子カルテの導入が想定されます。また、レーシックや緑内障の手術などをおこなう場合は、専用の部屋や機器が必要になるでしょう。
耳鼻いんこう科
耳鼻いんこう科では、耳鼻科ユニット・電子内視鏡システム・防音の聴力検査室・オージオメータの導入が想定されますが、導入するユニット数次第ではそこまで大きなスペースは必要ありません。
より多くの患者さんを診察するためにはネブライザーの導線を工夫するとよいでしょう。
整形外科
整形外科では、X線検査装置・骨密度測定装置・超音波診断装置の導入が想定されます。
また、リハビリ機器や運動機器に関連する設備や、理学療法士の確保、院内に滞在する患者さんのために広めの待合室があるとよいでしょう。
小児科
小児科の場合、子どもがリラックスして過ごすためのキッズルームを確保するケースがあります。
また、発熱患者(感染者)と非感染患者の入口を分けたり、隔離室があるとよいでしょう。
機器としては、検査結果を迅速に判断するために血液検査機器の導入が想定されます。
患者さんの待ち時間短縮のために順番待ち予約システムを導入したり、クリニックに来やすいよう駐車場を完備するなどの工夫も求められます。
産科・婦人科
産科では、分娩や不妊治療をおこなう有床診療所を想定する場合と、セミオープンシステムを用いる場合とで求められる設備が大きく異なるのが特徴です。
産科・婦人科で導入が想定される主な機器としては、超音波画像診断装置・検診台などです。また、女性が安心して診察を受けられるよう、プライバシーに配慮した動線分けが求められるでしょう。
クリニックの開業資金を調達する方法
クリニックの開業資金を調達する方法はおもに以下の3つです。
- 民間金融機関
- 医師会の開業支援ローン
- その他
融資期間や借入上限額はそれぞれで異なるため、利用する前に確認をしておきましょう。
民間金融機関
銀行や信用金庫などの民間金融機関から直接融資を受けることが可能です。金融機関によっては、開業医向けのローンが準備されているケースもあります。
民間金融機関の場合、地域との関係づくりができる点がメリットといえます。また、経営面でのサポートや研修サービスが受けられるケースもあるため、積極的に活用するとよいでしょう。
医師会の開業支援ローン
各都道府県の医師会では、地方自治体や医師信用組合などと一緒に開業医を費用面で支援する開業支援ローンが準備されているケースがあります。
医師会への加入を条件として、開業時の運転資金や物件購入費などの設備資金、医師会の入会費用などを借りることが可能です。
融資期間や借入上限額、担保の条件などは医師会ごとで異なるため、加入前に確認しておきましょう。
その他
その他の方法として、リース会社の開業支援ローンや日本政策金融公庫、独立行政法人福祉医療機構(WAM)という選択肢もあります。
ただし、日本政策金融公庫と独立行政法人福祉医療機構(WAM)は基本的に小規模では利用できず、クリニック開業には対応されないケースがあるため、あくまで手段の一つとして知っておきましょう
クリニックの開業費用を抑える方法
クリニックの開業費用を抑える方法は以下の通りです。
- クリニックを継承する
- 居抜き物件で開業する
クリニックの開業には膨大な費用がかかりますが、継承や居抜き物件での開業によって開業費用を抑えることが可能です。選択肢の一つとして視野に入れておくとよいでしょう。
クリニックを継承する
クリニックを継承すると、建物や設備、医療機器などを引き継ぐことができるため、建設や設備にかかる費用を抑えることも可能です。
また、継承によって、継承前からクリニックに勤務していたスタッフをそのまま引き継ぐことができれば、採用にかかる費用を削減することもできます。そのため、開業費用が抑えられるでしょう。
居抜き物件で開業する
居抜き物件とは前の入居者が使用していた設備や内装などを残したまま、売買または賃貸借できる物件です。継承物件とは違い、営業権が発生しないケースが多いです。
初期費用を削減でき、開業までの期間を短縮できるメリットがあります。
これらの選択肢はメリットがある一方で、内装やレイアウトを自由に設計できないなどデメリットもあるため、注意が必要です。
クリニックの開業を検討する際は開業個別相談会をご活用ください
開業資金は診療科やクリニックの規模、診療内容によって異なります。開業資金を把握するためには、クリニックの条件に合ったシミュレーション(事業計画)が必要です。
DtoDの開業個別相談にお申し込みいただければ、詳細な事業計画を作成できます。ご興味のある方はぜひ開業個別相談会にお申込みください。
まとめ
クリニックの開業には多岐にわたる費用が発生します。診療科や診療内容に応じて導入する医療機器や設備が異なるため、事前にしっかりと把握しておくことが重要です。
また、地域の特性や開業形態によっても開業資金は大きく異なります。自身の条件にあった開業資金の算出を把握するために、事業シミュレーションをおこなうことをおすすめします。