杏林大学医学部付属病院の研修ゲンバ
※下記の掲載内容は、2015年12月現在の情報です。
赤木 美智男 先生(総合研修センター長)
1979年に東京大学卒業後、同大学医学部附属病院研修医。1980~1994年に都立府中病院小児科等で勤務の後、1994年 杏林大学小児科講師。2003年より現職。
杏林大学医学部付属病院の特徴をお聞かせください。
北多摩南部地域の二次医療圏の中核病院としての役割と、大学病院として教育・研究を行う役割を担っています。救急科だけでなく、どの科にも救急の患者さんが多いのは特徴といえます。この地域の「最後の砦」ともいわれています。
病棟も外来棟も建て替えられ新しい建物になりました。
杏林大学医学部付属病院の初期研修の特徴を教えてください。
当院は、病院の機能としては専門領域の高度医療を担っていますが、初期臨床研修の目的は、臨床の基本を身に付けることです。研修医には、自分の好きな専門領域だけにかたよらずに万遍なくやりなさい、といっています。いろいろな科をローテーションするなかで得られるものがたくさんあります。各科の専門的なことは3年目以降ずっと学んでいけるのですから、焦る必要はありません。
私の専門は小児科ですが、臨床で患者さんを診るにあたっては、たとえば耳鼻科や眼科や整形外科などの知識もあった方がいいのです。私はストレート研修でしたから、今のようにローテーションでいろんな科を経験できるのはとてもいいことだと思います。また、患者さんをしっかり診ること、カルテを正確に書くことなどはどこの科に進んでも必要となります。年が経つと教えてもらえなくなりますから、初期研修の間にできるようになっていただきたいですね。
研修医の受け入れ態勢や研修中のサポート体制で工夫されていることはございますか。
設備面では、1年目、2年目それぞれの研修医室があり、研修医一人一人に個人机を用意しています。お昼ごはんを食べたり、業務後に話をしたり、同じ年次同士でリラックスできる場になっているようです。研修医室では電子カルテを閲覧できますし、水周りや冷蔵庫、鍵のかかるロッカー、自動販売機を設置するなど、アメニティも改善してきました。研修医室には事務のサポートの方がいて、研修医のお世話係のような役割も担ってくださっています。
サポート体制としては、年2回全員と面談を行っているほか、問題がありそうな場合には早めに介入するようにしています。各科の研修責任者を集めた会議や、各科の研修終了後に提出する4種類の評価表(指導医用、経験目標達成度表、研修医の自己評価用、研修医による指導医評価用)も参考にしています。
研修センター長として大切にされていることはなんでしょうか。
「研修医が医療事故を起こさないように」、言い換えれば、「患者さんと研修医を医療事故から守る」、ということです。患者さんにとってはもちろん、熟練した医師に診てもらう方がいいのですが、教育のためには未熟な医師を臨床の場で育てていく必要があります。時には採血を失敗したり、説明が不十分だったりすることもあるかもしれません。それが患者さんの不利益にならないように、指導医が責任をもってサポートできる体制をとっています。一つ何かあると、患者さんの一生、研修医の一生に影響を与えてしまう可能性があります。また、研修医の心と体の健康にも気を配っています。
研修医に「これだけは言いたい」ということは。
たくさんありますが・・・臨床研修は学ぶだけでなく、仕事でもありますから、病院の中で研修医としての責任を果たしてほしいと思います。それから、同じ研修をするのでも、どれだけのものを学べるかは結局は研修医の心がけ次第です。
たとえば10人の患者さんの採血をするときに、ただつまらない仕事だと思っているとそれで終わってしまいますが、患者さんの様子から学べることはたくさんあります。同じ研修をしても、たくさんお土産を持って帰ってくる人もいれば、そうでない人もいます。研修終了後の評価表を見るとそのことがよくわかります。
伝えたいことを凝縮して、「研修医ガイドブック」の最初の頁に「研修医十戒」というものを掲げています。
- 1.常に研修目標を意識せよ。
- 2.いつでも、どこでも、だれからでも、なにからでも学べ。
- 3.教わるまで待つのではなく自ら求めよ。
- 4.技能の上達は練習のくりかえしから。
- 5.良い習慣を身につけよ。
- 6.常に医療安全に留意せよ。
- 7.あやふやなままで処方や処置を行うべからず。
- 8.時間厳守。
- 9.ふりかえりと自己評価が独立した学習者を作る。
- 10.自らの健康に留意せよ。
いつか、そういうことだったのかと分かってくれる日がくると思っています。
これから初期臨床研修病院を選ぶ医学生へメッセージをお願いします。
有名で人気のある研修病院もありますが、みんなに人気がある病院だから、ということではなく、しっかり自分の目で見て、選んでいただきたいと思います。病院の建物や研修管理委員長の話す内容だけでなく、診療の現場やカンファレンスで研修医がどのようにふるまっているか、指導医がどのように指導しているか、といった点も決め手となるでしょう。当院は毎年6月に病院見学説明会を行っていますが、それだけでは時間に限りがありますから、いつでも見学を受け付けています。実際に各科を見学して、そこに自分の身を置いてみたらどうかを想像していただきたいと思います。
教育的な雰囲気があることは大切なポイントですね。一人や二人で教育しようと思ってもできませんが、病院全体として、「人を教育していくのが自分たちの任務だ」という認識があれば、自ずと関わり方が変わってきます。
最初の数年間にどれだけ伸びるかで今後の医師としての人生が決まるといっても過言ではありません。研修の内容でしっかりと選んでいただきたいと思います。