島根県立中央病院 研修医 佐藤 美愛(みちか)先生
略歴 |
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佐藤先生のご出身と医師を志された経緯を教えてください。
私は島根県出雲市の出身で、小学校2年生までは島根県隠岐の島町で育ちました。その後、岡山県新見市(にいみし)に移り、高校1年生の時に出雲市に戻ってきました。今は両親が新見市におり、私は出雲市内で一人暮らしをしています。
父は自治医科大学出身の総合診療医です。地域の方に寄り添った診療を行う父の姿勢を見ているうちに、この仕事に興味を持つようになりました。また、子どもの頃に過ごした隠岐の島町はとても居心地がよく、何より島の方々のあたたかさが印象に残っていたので、地域枠推薦を利用して島根大学医学部に進みました。島根県で医師になりたいと言ったとき、父はとても喜んでいましたね。
島根県立中央病院での初期研修を選択した理由を教えてください。
当院は高度救命救急センターを備えた救急指定病院です。一次~三次救急までカバーしており、多岐にわたる症状の方が年間に約3,800件搬送されます。臨床研修のうちに、こうした環境で救急医療についてしっかり学んでおきたかったのが理由の1つです。
また、搬送された患者さんのファーストタッチ、つまり最初の診療は、患者さんの年齢や症状を問わず研修医が務めます。必ず後ろに救命救急科の医師が控えており、相談をしながら必要な処置を行いますので、実地で多くの経験が積めることも魅力的でした。
臨床研修の2年間は、スーパーローテート方式によって複数の診療科を回ります。いずれ地域に出たときには、ある程度何でも診ることができないといけないので、多くの科を備えた総合病院であること、症例数が多いことも決め手になりました。いろいろな視点で患者さんを診ることができることが大きな学びになっています。
職場の雰囲気はいかがですか?
職員同士が気軽に挨拶を交わすような明るい病院なので、とても過ごしやすいです。看護師や理学療法士などの他職種と関わることも多く、迷ったときには助言してくれるのでとても助かっています。
また、当院は研修医の数が多く、私を含めて同期は16人です。毎年15人前後の研修医が入職するので、お互いに相談しながら学んでいけることは心強いですね。地域医療に対するモチベーションが高く、毎週木曜日には研修医だけでカンファレンスを行い、それぞれが調べたことを発表して切磋琢磨しています。
現在の医局では後期研修中の医師も近くにいるので、先輩として相談に乗っていただけることもありがたいです。もちろん、日々の勤務のなかで悩んだり、落ち込んだりすることもありますが、それが確実に糧になっている実感があります。
一日のおおよその流れを教えてください。
現在は産婦人科での研修中です。
水曜日は7:30~8:00にカンファレンスがあるので、病棟を担当しているときは、7:00~7:30くらいに病棟をラウンドし、患者さんの様子を確認します。
カンファレンス後は、常勤医師と、その日の患者さんの治療方針について相談をし、9:00~18:00は手術やお産、病棟勤務などを行います。17:15からは自己研鑽などでだいたい20:00くらいに帰宅しています。
1日のスケジュールは科によって違い、患者さんの多い科では慌ただしいときもあります。
実際に研修医として働いてみて、気づいたことはありますか?
最初は目の前の患者さんの疾患しか診ることができなかったのですが、1年目に総合診療科を経験したとき、患者さんは疾患以外にもさまざまな問題を抱えていることに気づかされました。
高齢の患者さんの場合、退院調整に悩むことがあります。入院時にすでに退院のことを見すえ、ソーシャルワーカーと連携しながら、その方がお一人暮らしなのか、ご家族構成はどうか、お仕事をされているのか、ご自宅でケアを続けられるか、家計状況はどうかなど、疾患だけに限らない生活背景、社会背景にまで踏み込んで考えておく必要があります。まだまだ勉強中ですが、本当の意味で「患者さんに寄り添う医療」というものがわかったように思います。
研修では、地域医療について学ぶ機会も多いのでしょうか?
島根県で働くことを考えたとき、地域医療の視点は避けては通れません。
私は1カ月の地域医療研修で隠岐郡西ノ島町の隠岐島前(どうぜん)病院へ行きました。離島では出雲市内以上に生活と医療が切り離せない患者さんが多く、患者さんを全般的に診ることのできる医師の必要性を痛感しました。
また、どこまでを自分で診て、どこからを専門医に任せるかの判断も非常に難しいと感じます。島内での診療が難しい患者さんはドクターヘリで島根県立中央病院などに搬送しますが、その判断は、患者さんの容態だけでなく天候にも大きく左右されます。実際に、「週末にかけて台風が来る予報なので、金曜日中に搬送するか否かの判断をしなければならない」という状況も経験しました。
それまでドクターヘリで搬送される患者さんを受け入れる立場だったのですが、西ノ島町で研修をして、搬送する立場に立てたことはとても勉強になりました。
患者さんを搬送する背景には、現地の医師や看護師、ご本人、ご家族の葛藤があり、何が最善かの判断が迅速に行われていることがわかり、離島で必要な医療について理解が深まったように思います。
離島での勤務を通じて気付いたことはありましたか?
離島勤務というと、すべてを1人でやらなければならない孤独なイメージがあるかもしれません。ですが実際には、迷ったときには周りの医師と相談できますし、ドクターヘリを要請するときも、電話一本で島根県立中央病院の救命救急科の医師につながるので、周囲の助けを得ながら経験を積んでいける環境だと思います。
島根県の医師は、患者さん一人ひとりに寄り添い、さまざまな症状にきめ細かく対応するスキルが高い方が多いです。東部の出雲市、松江市に比べ、島根県西部や隠岐はまだまだ医師が少ない現状がありますので、私も地域医療に貢献する医師として、もっとスキルを磨かなければならないと感じています。
お休みの日の過ごし方や、島根県ならではの楽しみはありますか?
時間がとれれば大学の同期に会いに行ったり、土日が休みのときは旅行に行ったりと、適度に休息をとりながら勉強しています。
島根県には優しい人が多く、病棟でも患者さんが「朝から大変だね」「先生、ごはん食べてないんじゃない?」「顔見るだけで元気になったよ」と気さくに声をかけてくださるので、こちらが元気をいただいています。
また、島根県は食べ物もおいしいです。イチオシはのどぐろですが、魚全般がおいしいのでおすすめです。
将来の目標を教えてください。
目標は、いつでも何でも診られる医師、そして患者さんやご家族を安心させてあげられる医師になることです。いずれは隠岐の島町で医師として働きたいと考えているので、これからさまざまな経験を積み、医師として成長していきたいと考えています。
臨床研修を修了したあとは、島根大学医学部附属病院の小児科で勤務する予定です。
病気でつらい思いをしているお子さんやそのご家族に少しでも寄り添うことのできる医師を目指したいと思います。
島根県での勤務や研修を考えている医師、医学生にメッセージをお願いします。
県外の方には、「島根県ってどこ?」と思われるかもしれません。知れ渡った県ではないかもしれませんが、顔と顔を合わせた密なコミュニケーションがとりやすく、いろいろな疾患の人を幅広く診て経験が積めるという利点があります。
「田舎だからできない」のではなく、「田舎だからこそできる」医療があります。患者さんと関係が近く、血の通った診療ができること、周囲の医師や多職種と気負わずに連携がとれること、研修医が主体的に患者さんに関われることなど、医師として研鑽する環境が整った場所だと感じています。少しでも興味を持っていただき、ゆくゆくは島根県の地域医療を一緒に担っていけたら嬉しいです。
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