【徹底解説】医院開業・医師開業・クリニック開業手順
失敗しない医院開業手順
医院開業・クリニック開業を成功させるためのページです。医院開業・クリニック開業を検討中の全てのドクターに不可欠な情報をまとめました。医院開業・クリニック開業に必要なことを確認しましょう。
この記事はDtoDコンシェルジュで医院の開業をサポートするコンサルタントが監修しています。 「開業を決意したものの、一体何から手をつけたらいいのだろう?」 これは開業を決めた医師が最初に直面する悩みだと思います。
また「開業準備に関する書籍などを通してやることがいろいろとあるのはわかったが、どう進めていけばいいのかよくわからない」という人もいらっしゃるのではないでしょうか 開業までの道のりは長く、そこにはさまざまな落とし穴もあります。 しかし開業に至るまでの行程はある程度決まっており、しっかりとした地図とコンパスがあれば、ほぼ確実に目的地へ着くことができます。
大事なのは最初に「いつ、何を、どのような段取りで進めていけばいいのか?」「各段階では、それぞれどんな落とし穴に気をつける必要があるのか?」の2つをしっかり確認しておくこと。
ここでは実例を交えながら以下の流れで医院開業までの流れについて紹介していきたいと思います。
目次
【はじめに】医院開業・クリニック開業までのスケジュールを再確認
医院を開業すると決めた後に、まず気になるのは「いつ頃から準備を始めるべきなのか?」でしょう。 新規開業の場合は少なくとも1年以上かけて準備するのが一般的です。多少の余裕を見込んで、開業希望時期の14カ月前ごろから動くのが理想といえます。細かいスケジュールは開業形態や地域によって異なりますが、大まかには次のようなものになります。医院を開業すると決めた後に、まず気になるのは「いつ頃から準備を始めるべきなのか?」でしょう。 新規開業の場合は少なくとも1年以上かけて準備するのが一般的です。多少の余裕を見込んで、開業希望時期の14カ月前ごろから動くのが理想といえます。細かいスケジュールは開業形態や地域によって異なりますが、大まかには次のようなものになります。
このうち開業の予定が遅れる一番の原因となるのが、開業地の選定に時間をかけすぎることです。通常は上記のスケジュール通りに探し始めて3~4カ月以内には決まることが多いですが、
- 条件が厳しすぎてなかなかよい物件が見つからない
- 候補がたくさんあって決め切れない
などでなかなか決まらない場合、全体の進行に遅れが出ることは避けられません。
開業の時期については、特にいつの時期が有利というものはないと言っていいでしょう。 たとえば内科医院であれば「風邪やインフルエンザで患者さんが増えはじめる秋がいい」という話を聞きますが、開業当初は医師もスタッフも慣れないことだらけです。不十分な受け入れ態勢のままで多くの患者さんを迎えてしまい、スムーズな対応ができなければ、医院の印象が悪くなるというリスクも存在します。 実際には、年度末で職場を退職し開業する医師が多いことから、4月や5月の開院が多くなっています。
開業に向けてやるべきことの中でも、特に重要なのは
- 診療方針・経営基本計画の策定
- 開業地の選定
- 資金調達
の3つです。
それぞれについて【1】~【3】でもう少し詳しく紹介していきます。
1. 診療方針や経営基本計画の策定は、
「開業の動機」の掘り下げから
開業への具体的な行動として、まずやらなければいけないのが「診療方針・経営基本計画の策定」。わかりやすく言えば「どのような患者さんに、何を、どのように提供するのか」を決める作業です。
診療方針・経営基本計画作りが重要なのは、それが開業に向けてのさまざまな選択をしていく中で指針となる存在だからです。たとえば開業地選びにしても、一般内科として生活習慣病の患者さんを診ていきたいのか、豊富な内視鏡検査の経験をいかして検査メインでやっていきたいのかでは、対象となる患者層が異なるため、物件選びの基準も変わります。 このように医院の開業・経営の土台となる部分なので、最初に時間をかけて慎重に考える必要があるわけです。
診療方針や経営基本計画の作成自体は難易度が高いものではなく、基本的には「なぜ開業したいのか」「どういう診療をしたいのか」といった開業の動機を掘り下げていくことで、自然と固まっていくものです。 ただ、開業の動機は「身につけた技術をいかしたい」「地域医療に貢献したい」というポジティブなものから、「大病院の人間関係やしがらみに疲れた」といったネガティブなものまで複数組み合わされているのが一般的です。なかには普段、自分では意識していないものもあることでしょう。 それらを掘り下げていくためには、「開業して何がしたいのか?」と「どうなりたいのか?」の2つをキーワードに、一度紙に書き出してみるのがおすすめです。
書き出し方に特に決まりはありませんが、ポイントはできるだけ具体的に書くこと。 例えば消化器内科のドクターで、開業してやりたいことが「内視鏡検査を医院のなかで体系立てて行っていきたい」だとしたら、できればもう一歩踏み込んで、「1日に○人、または週○人ぐらいは検査の患者さんを受け入れたい」と具体的な数字まで考えてみてください。 「どうなりたいか?」の方は、将来的な見通しではなく、収入はどれぐらい必要か、どんな風に生活したいのかなど、診療内容以外の要素について書いていきます。それらの作業を行ううちに、「どんなコンセプトで、どのような患者さんに、何を、どのように提供する医院を作りたいのか」が見えてくるはずです。
なかなか固まらない場合は、医師を目指したそもそもの理由や専門科目を選んだ理由に遡って考えてみることも助けになります。また開業コンサルタントをはじめとするサポート機関の担当者など、誰かに話してみるのもおすすめの方法です。考えをまとめるのに役立ちます。
2. 重要にして難関の「開業地選び」
診療方針の策定を通して「どのような患者さんに、何を、どのように」提供するかがある程度固まってきたら、次に手をつけるべきは「開業地の選定」です。 開業地の選定は集客にも直結しますし、もし後から変更しようとするとこれまでの工程がすべてやり直しになってしまう非常に重要な段階です。失敗できないところなので、段取りのポイントと陥りやすい落とし穴を知っておくことが役立ちます。 まず、開業地決定までのおおよその段取りは次のようなものです。
- 開業場所の形態を決める
- エリアの希望を考える
- 実際に不動産会社や開業コンサルタント会社などに依頼して物件(土地)を探してもらう
- 紹介された物件(土地)が妥当か検討する
それぞれ詳しくみていくことにしましょう。
2-1. 開業場所の形態を決める
開業場所の形態とは、一戸建てにするのかビルのテナントに入るのか、それとも医療モールに入居するのかといった医院の入居先の問題です。 地域ごとに傾向があり、たとえば郊外では車での来院を前提にした一戸建ての診療所も珍しくありませんが、首都圏、特に東京23区内での新規開業の場合は、ほぼ90%以上の割合でビルや医療モールのテナントになります。
2-2. エリアの希望を考える
開業場所の形態を決めたら、診療方針策定のときに考えた「どのような患者さんに、何を、どのように提供するか」という軸に沿って、開業エリアを考えます。 たとえば診療方針が、「大学病院での経験をいかして地域医療に貢献する」なら、その専門科目の医院が少ない地域が候補エリアになるでしょうし、「家族との時間も大切にしたい」のなら自宅からの近さもポイントの1つになるでしょう。
2-3. 実際に物件探しを依頼する
開業場所の形態とエリアの希望が決まったら、いよいよ物件探しに入ります。 といっても、もちろん自分で探すわけではなく地域の不動産会社や開業コンサルタントなどに依頼し、条件にあった物件を紹介してもらうことになります。
2-4. 紹介された物件が妥当か検討する
いくつかの物件の紹介を受けたら、現地調査や物件データの確認などを通して開業地として妥当かどうか検討する段階に入ります。チェックすべき項目はたくさんありますが、ぜひ押さえておきたいのは次のような点です。
【チェック項目1】エリアの人口、年齢構成
開業地周辺の人口が多いか少ないかは、来院患者数に直結する要素です。 また10年後や20年後までを予想する上では、人の数だけでなくその年齢構成を知っておくことも重要です。 つまり、厚生労働省が発表する受療率(*)などを参考に、1日のおおよその患者数を計算して予測を立てるなど、予め開業地周辺の市場調査を行うことが必要であるといえます。 *ある特定の日に疾病治療のために、すべての医療施設に入院あるいは通院、または往診を受けた患者数と人口10万人との比率のこと
【チェック項目2】エリアの人の動き
たとえば同じ駅の近くでも、通勤通学によく使われる道沿いなのか、奥に1本入った通りなのかで来院患者数がまったく違う場合もあります。地図を確認するだけでなく、実際の人の流れを自分の目で見ることも大切です。
【チェック項目3】交通機関の状況
人々の主な移動手段は徒歩なのか自転車なのか車なのか、最寄り駅は複数の路線に乗り換えられる駅なのか否かといった違いです。 たとえば内視鏡検査など専門性の高い医療を中心に行っていきたい場合、一般内科に比べて広い地域から患者さんを集める必要があるため、利便性の高いターミナル駅の近くに開業することなどが考えられます。
【チェック項目4】エリア内の競合となる医院の数と実態
既に人口に対して十分な数の医院があるなら、ほかの候補エリアを検討するか、他院と異なるサービスを提供する必要があるでしょう。 また地図上には医院の表記があっても、実際には休業していたり、院長が高齢のため診療対応を減らしているなどという場合もあるので、やはり現地で実情を確かめるのが大切です。
また開業地選びの方法として、「一から建てる」「テナントを借りる」以外に後継者のいない医院を設備・地域の患者さんごと受け継ぐ「継承」や、閉院後の医院を設備ごと借りる(または購入する)「居抜き」という方法もあります。 開業したいエリアにちょうどいい物件があるとは限りませんが、開業コンサルタントまたは地元の不動産会社には情報が集まっている場合もあるので、興味があれば相談してみるのがおすすめです。
2-5. 開業地選定時の失敗例
また、開業地の選定で起こりがちな失敗例もあわせて紹介します。
【失敗例1】人気エリアを選んでしまう
マンションの開発が進み人口が増えている地域はとても魅力的に見えます。 一見「人が増えているなら医院の需要も多いのでは」と思えるのですが、例えば高齢者を対象にした医院を開業する場合、問題は実際に新しく転入してくるのは子育て世代が大半で、実は高齢者数はさほど多くないということに後から気づくという場合も少なくないことです。人口構成をしっかり把握していないと、思ったほど患者さんが集まらないという事態が起こりえます。 ただし逆に考えれば、小児科医院開業には新興住宅地はチャンスが多いエリアともいえます。
【失敗例2】理想を追い求めすぎてしまう
いくつかの候補の中から物件を選ぶ際は、立地や価格、広さ、使い勝手などを比較して「よい場所」かどうかを判断します。しかし、すべてが理想にぴったりという物件はまず存在しません。 あまり理想の条件にこだわるとそれだけいい物件は見つかりにくくなりますし、逆に選定基準が曖昧だと「あれもいいな」「これもいいな」と目移りしてしまって、一向に決まらないということも起こりえます。 そんな事態を防ぐために有効なのは、条件の優先順位をはっきりさせ、選定の際にはそれをきちんと守ること。優先すべきは候補地周辺の市場環境なのか、候補地へのその他のこだわりなのかなど、「診療方針」に沿って判断基準を決めておくことが重要です。
【失敗例3】医療機関が入れない物件を選んでしまう
まさかと思うでしょうが意外と起こるのが、紹介された物件がそもそも医療機関の入れないビルだったという場合です。 医療機関が入居可能な建物についてはさまざまな規定があり、不特定多数の人が自由に出入りできないビルでは開業することはできません。 気をつけていないと契約直前で入居不可であることがわかり、すべてやり直しになる場合もあります。また同様に、搬入口が狭くて予定していた医療機器が入れられない、水周りに大幅な工事が必要になるなども、ありがちな落とし穴といえます。 対策として有効なのは、そもそも医療機関の物件探しに慣れた不動産会社または専門の開業コンサルタントに依頼すること。数多く扱っているところなら医院の開業規定にも習熟しているので、安心して任せられます。
2-6. 自分で物件を探す
自分で物件を探したい場合は、以下から探すとよいでしょう。
2-7. 動向情報
科目・エリア別の動向情報を参考にしてください。
3. 医院開業・クリニック開業の「資金調達」はどうするか?
「診療方針の策定」の後、「開業地の選定」と平行して行うのが資金調達の段取りをつけること。計画を実際に形にしていくためには実際にお金が必要ですから、言うまでもなく大切な準備段階です。 具体的には銀行から融資を受けることになりますが、その前提となる開業資金の全体像として次のポイントを理解しておくことが必要です。
- 必要な開業資金の目安
- 融資してくれる金融機関の選定
- 融資に必要な書類「事業計画書」を作成
3-1. 必要な開業資金の目安
まず医院開業に必要な開業資金は、地域や診療科目、タイプなどによる違いはありますが、仮に首都圏のビルテナントとして一般内科を開業する場合、おおよそ5000万~8000万円程度が一般的です。 仮に8000万円とした場合、大まかな内訳は次のようになります。
- 建物・内装工事費(テナント料前金、改装工事費、家具の購入費用など) 3000万円
- 医療機器代 2500万円
- 初期の運転資金(広告費や生活費などを含む) 2500万円
- ※内装費用については近年上昇傾向が続いておりますので、金額は変動します。
このうち医療機器代はリース契約を結ぶのが一般的であり、支払いは月々になるので、この部分は最初に用意する必要はありません。 なので、最初に用意しなければいけない金額は、この場合では実質5500万円ほどとなります。 このうち約1000万円を自己資金で、残りの4500万円を融資で補うというのがひとつの開業例です。
3-2. 融資してくれる金融機関の選定
融資を行っている金融機関は政府系金融機関、メガバンク、地方銀行などさまざまな金融機関があります。 金融機関から融資を受けるには、その金融機関の担当者に収入の見込みや経営計画を示した「事業計画書」を提出し、計画を納得してもらう必要があります。
3-3. 融資に必要な書類「事業計画書」を作成
「事業計画書」とは、簡単に説明すると「開業時に、何にどれだけお金をかける予定なのか」「その資金をどう調達する予定なのか」「開業後の収支の見積もり・経営計画」の3つをまとめた書類です。 銀行が融資の可否を判断する基本となるもので、書き方は決まっていませんが必要になるのは次の3つの情報です。
(1)開業時の支出内訳
土地、建物、内装、テナント敷金、医療機器、広告宣伝費など何にどのくらいの費用を使うのか。
(2)資金調達の内訳
自己資金または借入金、リースなど、どのように資金を調達する予定なのか。
(3)開業後の初年度収支計画
主に以下の2点から、計画の精度を確認します。
- 開業後の収入見込み … 患者1人あたりの単価×1日の来院患者数(及びその根拠)×診療日数
- 開業後の支出見込み … 医業原価、人件費、生活費など
これらの収支計画を通して銀行がチェックしているのは、「過剰投資を行っていないか」と「収支計画に無理がないか」の2点です。ここでは知らずにやってしまいがちな失敗もあるので、詳しく解説しておきます。
まず「過剰投資」ですが、これはたとえば内装が豪華すぎないか、医院の面積に対して内装費の割合が大きすぎないか、また医療機器のグレードが高すぎないかといったことです。 医療機器については、勤務先の大病院などで使い慣れたものを選んでしまいがちですが、そもそも大病院向けの医療機器と医院向けのものとではグレードも異なります。対象とする患者さんや予定診療数に合ったものを選んでいるか、などが過剰投資かどうかを判断されるポイントになります。
一方「収支計画の妥当性」については、患者数の見込み人数ももちろんですが、盲点になりやすいのは開業後にかかってくる生活費の試算です。 個人で診療所や医院を開業する場合は、診療所の収益=家計の収入ということになるので、支出として毎月の生活費を考えておく必要があります。ここはついつい低く見積もりがちですが、住宅や車のローンなどもあり、現実問題として現在の生活レベルを落とすのは難しいのが現実です。開業により勤務医だった頃とは大きく環境が変わりますし、開業直後は何カ月か赤字が続く場合も考えられるので、家族の理解を得た上で現実的な数字を記載することが何より大切です。
「事業計画書」の作成は、銀行の融資を得るというだけでなく、開業後に計画通り進んでいるかを判断する上でも重要な役割を果たします。銀行に提出するだけでなく、今後の経営の指針とするためにも非常に重要なものなのです。
とはいえ、「事業計画書」の内訳はややこしい項目も多く、1人で作成するのは大変な作業です。開業を多く手がけている税理士を探して相談するか、開業コンサルタントにお願いするのが現実的にはおすすめの方法といえるでしょう。
3-4. データで見る医院開業
平均年収 | |
---|---|
開業医 | 2,763万円 |
病院勤務医 | 1,490万円 |
開業医の平均年収(個人・医療法人等を含めた全体の数値)は27,634,111円(平均年収27,473,134円+賞与160,977円)となっており、病院勤務医の平均年収(国公立・医療法人等、すべての経営母体を含めた全体の数値)は、14,908,542円(平均年収13,229,342円+賞与1,679,201円)となっています。
一般診療所の平均損益
金額(千円) | |
---|---|
Ⅰ医業収益 | 157,179 |
1.入院診療収益 | 8,538 |
2.外来診療収益 | 137,277 |
3.その他の医業収益 | 11,365 |
Ⅱ介護収益 | 2,712 |
1.施設サービス収益 | 421 |
2.居宅サービス収益 | 2,050 |
3.その他の介護収益 | 241 |
Ⅲ医療・介護費用 | 146,319 |
1.給与費 | 77,079 |
2.医薬品費 | 20,547 |
3.材料費 | 5,415 |
4.給食用材料費 | 491 |
5.委託費 | 6,879 |
6.減価償却費 | 5,616 |
7.減価償却費 | 30,293 |
損益差額(Ⅰ+Ⅱ-Ⅲ) | 13,572 |
一般診療所の職種別常勤職員1人平均給料年(度)額
一般診療所の職種別常勤職員1人平均給料年(度)額は以下のようになっています。
職種 | 平均給与(円) |
---|---|
院長 | 27,634,111 |
医師 | 10,713,619 |
歯科医師 | 5,728,000 |
薬剤師 | 9,886,638 |
看護職員 | 3,910,497 |
看護補助職員 | 2,401,581 |
医療技術員 | 4,353,351 |
事務職員 | 3,058,765 |
その他職員 | 2,978,943 |
役員 | 5,055,685 |
4. 医院開業・クリニック開業準備の中盤から後半(10~3ヵ月前)で決めること
すべての軸となる診療方針が決まり、開業場所が決まり、融資の見通しが立てば、開業への大きな関門を乗り越えたといえるでしょう。それでは開業準備の後半でやるべきことを紹介します。
4-1. 内装工事
物件が確定したら、内装工事を施工会社に発注することになります。 基本となるデザインや色調は基本的に院長の診療方針・好みで決まりますが、診療方針に沿い、ターゲットとなる患者さん層を考慮した上で決めることが大切です。また現在では、院内はもちろんトイレや医院へのアプローチを含め、バリアフリー設計にすることは常識となっています。
ついつい見逃しがちな落とし穴としては、理想を追い求めすぎた結果、コストが想像以上に増大してしまうこと。例えば、トイレの仕様を手動式にするか自動開閉式にするかなど、些細な変更点の積み重ねで設計コストが大幅に上がってしまう場合もあります。本当に必要なものを選別する視点が大事になるでしょう。
4-2. 医療機器の選定
医療機器は、医院の運営を行っていく上で必ず考える必要があるものです。診療科により必要な医療機器には違いがありますが、どの科にも共通すると思えるのは「電子カルテ」の重要性です。病診連携を図る上でも、電子カルテを導入する医院は増えており、新規開業ではほぼ必須のアイテムとなりつつあります。
電子カルテにはさまざまな企業の製品が出ており、基本的には自分が使い勝手のよいものを選べばよいのですが、迷った時は「操作性」「アフターフォロー」「金額」の3点を比べてみると良いでしょう。
その他の医療機器については、X線やエコー、内視鏡などの中から自分の診療に必要なものを選ぶのが基本です。気をつけるべきなのは、前述の通り病院と医院とでは患者数やどのような患者さんが来るのかが違うことから、同じ検査機器でもグレードの違いが存在するということ。また、CTやMRIなどは機能的にはぜひほしくても、経営の面からは一度採算が合うか否かを計算してみる必要があることです。 採算的には赤字でも、診療理念を貫くためにはぜひ必要な機器があるような場合でも、経営計画と照らし合わせて問題のない範囲で導入することが大切です。
4-3. リスクマネジメント
医師は勤務医の場合でも、生命保険や損害保険に入っているのが普通でしょう。ただ開業を境に医師であり経営者でもある身へと生活はガラリと変わるので、このタイミングで保険を見直すのが一般的です。具体的には、開業にあたって新たに借り入れた資金のリスクヘッジを軸に、保険全体を見直していく作業が必要になります。
4-4. 税理士の選定
事業計画書を作成する段階で決まっていることもあるでしょうが、税理士の選定も後半でやるべき仕事の1つです。税理士の主な役割は、以前は帳簿の記帳と税務申告でしたが、最近では守備範囲が広がり、データの分析結果を踏まえて、経営に対して有益なアドバイスを与えてくれる税理士が選ばれる傾向にあります。 やはり、医療機関の立ち上げや経営アドバイスに慣れている税理士がおすすめです。
4-5. 集客(広告)の準備
いかに患者さんを集めるかというのは、一般の店舗の集客と同じで非常に重要な問題です。現在最も反響が期待できる集客方法は、「ホームページ」と「口コミ」の2つとなっており、それぞれを考えていく必要があります。
まずホームページは、自分で作る場合と業者に委託する場合が考えられますが、重要なのは患者目線を大切にして、「どんな強みがある医院なのか」を専門的な内容に偏らずに、わかりやすく伝えることです。 ただし、医療機関の広告は法律上細かいルールがあり、例えば学会専門医の表記法や年間の手術件数などの表現にも規制があったりするので、自分で行うなら厚生労働省の「医療広告ガイドライン」などで確認するとよいでしょう。業者に委託する場合は、内容を更新したい時はいつでもスムーズに更新できるかどうかも重要な要素になります。
一方、口コミについては、以前の勤務先から付いてきてくれた患者さんや最初に来てくれた地域の人などを中心として、徐々に広がっていくのが基本です。時間がかかるのが難点ですが、いい評判が広がれば自然と患者さんが集まるので、何より頼れる集客ツールになりえます。 本格的なオープンの前に地域の方や関係者を招待する「プレオープン」を行う、積極的に地域の会に参加していくなどで、医院を知ってもらう機会を増やすことが大切です。
4-6. スタッフの採用
「どんな人を採用するか?」は医院の雰囲気を決定付けるだけに、非常に重要なポイントです。開業前の人材募集にはハローワークは使えないので、基本的にはウェブの人材募集サイトや新聞の折り込み広告、求人誌ガイドなどに募集広告を打って、必要な人材を募集することになります。 現在の動向としては、看護師はどの医療機関でも慢性的に不足状態が続いています。一方、医療事務は好景気になると他職種に流れるため希望者が減り、不景気になると希望者が増えるという傾向があります。 元の勤め先から、ベテランの看護師さんが一緒に来てくれるなどがあれば心強いですが、そうでない場合でも、1人は経験豊富な看護師さんがほしいところです。
4-7. 開業に関する行政手続き
開業にあたっては、保健所に出す「診療所開設届」や厚生局に出す「保険医療機関指定申請」など、さまざまな行政機関への届け出が必要になります。書式が決まっているものであり、届け出自体は難しいものではないのですが、内容が認められない等もある為、各機関に事前相談の上、提出することが大切です。 特に、落とし穴となりがちなのは以下の2点です。
(1)各出先機関で対応が異なること
届け出は各地域を管轄する出先機関で行うわけですが、例えば同じ「保健所」でも、場所が変われば対応が異なり、また申請の締め切りや添付書類も異なります。 「コンサルタントがこう言ったから」「過去にこれで大丈夫だったから」というのは通用しない場合もあるので、届け出を行う際には、必ずその地域を管轄する行政機関で事前相談を行うようにしましょう。
(2)必ず「テナントの賃貸契約を結ぶ前」に保健所に行くこと
先に、不動産屋によっては実は開業できないビルを紹介される場合もあると述べました。それがつまり「この場所で開業します」という届け出をしたものの、保健所から「ダメです」と言われるパターンです。 理由は水周りの不適合や不特定多数の人が出入りできるビルか否かなどさまざまで、きちんとした理由があるわけですが、もし契約を終えてから「ダメ」と言われると、金銭的にも時間的にも大きな損失が出てしまいます。そこで、テナント契約を結ぶ前に、必ず保健所に確認することが必要となります。
5. 開業後のトラブル原因は「お金」か「人間関係」
数々の難関をクリアして開業しても、それは「始まり」であって「ゴール」ではありません。お店や会社と同じように、5年、10年と続けていくことができて、初めて「開業成功」と言えるでしょう。安定した医院経営のために、知っておくと役に立つ、開業後に起こりがちなトラブルとその原因についてもまとめて紹介します。失敗事例として確認しておきましょう。
5-1. 患者さんが少なくて不安になる
たとえ事業計画書通りであっても患者数が少なく、手元にある運転資金が減っていくのは精神的に非常につらい状態です。「このままで大丈夫なのか」「開業したのは失敗だったのじゃないか」など、さまざまな思いがよぎりますが、経営的に軌道にのるのは1~2年程度かかるのが普通であり、最初は思ったより少ないのもよくあることです。 特に他の医院との違いを打ち出しにくい一般内科では、集客には時間がかかりがちです。 集客は1~2年のスパンで考え、その間は事業計画書通りに患者数が増えているかを確認し、増えていなければ対策を講じていく必要はありますが、概ね3年目で経営を軌道に乗せることを目標にしてみるといいでしょう。
5-2. スタッフ同士の諍い(いさかい)や人間関係のトラブル
スタッフ同士の揉め事や諍い(いさかい)は多くの医院で起こる、避けられないトラブルの筆頭格です。大したこともなく自然に解決する場合もありますが、最悪の場合はスタッフが次々に辞めてしまうということも起こり得ます。 日頃から院内の人間関係には目を配り、問題がありそうなら間に入って話を聞くなど、早めに対処していく必要があります。
5-3. スタッフとの労使関係トラブル
院長とスタッフの間でも「言った言わない」とか「指示を勘違いした」など、労使関係のトラブルは起こりがちです。対策としては、雇用条件や勤務規定など、法的なものは社会保険労務士に依頼してきちんと整理しておくこと。また、日頃から、スタッフとコミュニケーションをとっておくことが大切です。
5-4. システム面でのトラブル
患者さんが増えてきた頃によく出てくるのが、「待ち時間が長い」というクレームです。完全に解消することは難しいですが、待合室の改築や予約システムの導入、受付のアナウンスを変えるなどの方法で対応できる場合もあります。
このように、失敗事例としてまとめると開業後のトラブルの原因となるのは、ほぼ「お金」か「人間関係」のどちらかであることがわかります。
お金に関しては、
- 1日、1週間、1カ月、3カ月、半年、1年で来院数・診療単価の確認を行う
- 毎月の支払い額を確認し、資金がショートしないように気を配る
- 機器の過剰投資を避ける
- 「経費になるか否か」など、常に経営者の目線からお金を考える
の4つを実践していれば、だいたいのトラブルは防げます。また人間関係に関しては、「スタッフの雇用主である自覚を持ち、こまめにコミュニケーションをとる」ことで大きなトラブルに発展する前に対処することができます。
6. 医院開業・クリニック開業をサポートしてくれる機関
ここまで、診療方針作りに始まり、開業地の選定、事業計画の作成、融資の確定……と続く開業までの流れをご紹介してきました。段階ごとにやるべきこと、気をつけるべきことの多さに、「大変そうだ」という感想を持たれたのではないでしょうか。
ただし、必ずしもこれらすべてを自分でやる必要はありません。医師の開業に関しては、工程の一部又は大部分を代行してくれる「開業サポート会社」が存在しています。
そのような開業サポート会社を利用するメリットは、自身の労力を減らすことはもちろん、迷った時にアドバイスをもらったり会社独自の分析ツールやコネクションが使えたり、また開業後も軌道に乗るまできめ細かいケアが受けられたりと、自分1人では難しい数々のサービスを利用できることです。
例えば、立ち上げから開業後のサポートまで一括で行っている専業会社に頼めば、各段階に合わせて自分で不動産屋や施工会社、医療機器リース会社などを探す必要はありません。 経験も多いので、開業地選びの落とし穴として紹介した「医療機関は入れない」トラブルや、医療機器の使い勝手が悪い、行政機関に出すべき届け出を忘れてしまったなどの、初歩的なミスを避けるのにも役立ちます。
また「最初の一歩」に悩んだ時は診療方針の立て方から相談にのってもらうこともできますし、自身の力だけでは難しい開業地の調査や事業計画書作り、自分では気がつきにくい医療機器への過剰投資などにも、的確なアドバイスをもらうこともできます。 何より、「勤務医」から「経営者」へとまったく違うステージに挑戦する中で、開業後も長期的に相談にのってくれる存在がいることは大きな支えになるでしょう。
ただ、サービス内容は会社により千差万別です。 だいたいどの会社も、診療方針作りから開業準備後半の諸手続きまで幅広いサービスを展開していますが、内容の充実度は各会社によって大きな差があります。 おすすめなのは、取り扱い件数が多く、さまざまなノウハウを持っており、かつ開業を「ゴール」ではなく「スタート」と考えて長期的なサポートを行ってくれるところです。ある意味、開業後のトラブルの方が「本番」なので、集客や院内の人間関係もサポートしてくれるところが安心です。 しっかりと準備を重ねて、自分ならではの医院開業を成功させましょう。