収入を抑えても、勤務時間を減らしたい/勤務地を選びたい
収入が高い水準にあっても、頻繁な異動や睡眠時間を削られるような激務となれば、転職という選択肢が頭をよぎります。特に医局に所属している場合、本人の希望としない異動も多く、それを理由に転職している医師も少なくありません。
この記事では、医師の労働時間や年収に関する調査と、「収入を抑えても、勤務時間を減らしたい/勤務地を選びたい」と、転職した/転職を検討している医師の声をまとめ、その内容について解説します。
医師が転職を考える理由「労働時間過多」1日平均15時間労働の現実
厚生労働省が行った「医師の勤務実態及び働き方の意向等に関する調査」によると、20代、30代の男性常勤医の平均勤務時間は週56.85時間。これに当直・オンコールの待機時間などが加わり週5日で平均すると、1日15時間以上業務に携わっていることがわかります。
ちなみに、「毎月勤労統計調査 令和元年11月分結果確報」の第二表によると、所定外労働時間の平均は月平均12時間。これと比較すると、医師の労働時間の長さは圧倒的です。
また、弊社が実施した「医師の働き方改革に関するアンケート調査」の「働き方改革の具体的な施策として、どのようなことを実施していますか?(実施したらよいと思いますか?)」という問いに対し、一番多かった声が「長時間労働の是正」です。
興味深いのは「医師の労働時間に上限規制は必要だと思いますか?」という問いに対して、68%の方が「必要である」と答えていること。現在の制度では、医師が「働かされすぎる」現状を、制止させる術が乏しいことがうかがえます。
転職した/転職したい医師の声「収入を抑えても、勤務時間を減らしたい/勤務地を選びたい」
夕食はほぼコンビニ、家族との時間が欲しい
年齢 | 35 |
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性別 | 男性 |
専門科目 | 整形外科 |
専門医/資格 | 日本整形外科学会認定 専門医 |
役職 | なし |
所属 | 市中病院 |
年収 | 前職:1,200万 → 現在:1,400万 |
転職回数 | 3 |
脊椎外科の専門的な勉強をしたいと考え、1年前に転職しました。現在の勤務先は、症例数も多く、指導もしっかりしているため、研修という意味では非常に充実しています。一方で、非常にハードワークであるため、いつまで続けるかが難しいところです。
朝は7時前から回診が始まり、夜は毎日22時過ぎまで。月に4、5回当直があります。自宅は職場から1時間かかるため、平日に自宅で夕食をとることはありません。ほぼ毎日、帰宅途中にコンビニで買って食べています。
帰宅後1時間以内に寝て、起床後30分以内に家を出ると決めていても、睡眠時間はやっと5時間。仕事が少し長引けば3~4時間の日もざらです。
土日は交替制ですが、平日に終わらない仕事をしようとすると、どちらか1日は夜までかかってしまいます。
今年子どもが産まれる予定ですが、一緒に住んでいるのに会うのは週1ということになりかねない気がしています。現在はまだ難しいですが、ある程度研修をして力がついたら、もう少しプライベートも充実できるような勤務先への転職を考えようと思っています。
準備してきた学会にも影響、突然言い渡される人事異動
年齢 | 33 |
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性別 | 男性 |
専門科目 | 泌尿器科 |
専門医/資格 | 日本泌尿器科学会認定 専門医 |
役職 | 医局員 |
所属 | 大学病院 |
年収 | 現在:1,100万 |
転職回数 | 0 |
私が所属する医局の人事異動通達は、ほかの医局よりも遅く、悩みの種になっています。部長クラスの人事はわかりませんが、中堅以下若手医師への人事通達は、異動の約1か月前。短期間での引継ぎや転居の手配などは負担が大きく、悲惨な状況です。
私が異動命令を受けた時は、学会発表の準備に費やす予定だった土日を奪われ、友人との約束をドタキャンし、引継ぎや転居の準備を行いました。短期間では転居物件が決めけれず、数日間は3時間以上かかる異動先へ毎朝4時起きで通いました。
家庭を持つ医師であれば、なおさら物理的な準備も精神的な準備も追いつきません。他大学の医局に話を聞くと、異動の4、5か月前には通達があるようで、うらやましく思います。
このような状況なので、うちの医局員は年末頃からそわそわ。なにかにつけて話題は人事一色です。
話せば話すほど不安になり、気付けば医局長との面談への列ができる始末です。この頃になると医局員同士の陰口や小競り合いが増えるのも人事への不安からかもしれません。
しかし、結局のところ教授がすべての人事権を持っており、希望を医局長に言ったところで、人事に反映された試しはないです。
「すべての医局員が納得のいく人事はない」とはよく言われます。たしかにその通りだとは思いますが、うちの医局には、公平性と透明性がありません。
先輩方を見てみると、日々教授の顔色をうかがいながら、かげでは人には聞かせられないほど悪口を言い、人事に不安を感じながら勤務を続けています。みな話せば良い先輩ばかりですが、自分の10年後はこうありたくないと思い、いまは医局を離れる準備を進めています。
週4勤務に転身、自身の目で子どもの成長を見る喜び
年齢 | 44 |
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性別 | 男性 |
専門科目 | 呼吸器内科 |
専門医/資格 | 日本呼吸器学会認定 専門医 |
役職 | 院長 |
所属 | クリニック |
年収 | 前職:1,700万 → 現在:1,500万 |
転職回数 | 2 |
医局に勤務していた当時、研修時代からお世話になっている恩師の誘いで、大学病院から市中病院へ転職しました。医局に7年間いたため、離れることに対する不安もありましたが、尊敬する恩師の下で医療を学びたいと思ったのです。
市中病院では当直も多く、連日ポケベルで呼び出され本当に激務でしたが、最新の機器が揃った新しい職場でのやりがいは、この上ないものでした。そして、このころ第一子が誕生しました。
妻も働いていたため、共働きで私が帰るのは、午後9時を回るのが当たり前。妻はなにも言わずに仕事と家事をこなしてくれていましたが、二人目が双子とわかり、勤務体系について考えるようになりました。
ちょうどそのころ友人が転職したため、私も同じ転職支援会社のエージェントに相談に乗ってもらうことに。ずっとお世話になってきた恩師への後ろめたさもありましたが、3か月後には、クリニック院長のお話をいただけることとなりました。
そして、怒鳴られることを承知で恩師へ相談したところ「うちは離婚したからな。お前は頑張れよ」と寂しそうに言われ、思わず泣きそうになったのが昨日のことのようです。
年収は1700万から1500万とダウンしましたが、この転職で私の人生は大きく変わりました。オンコールも当直もない生活に最初は戸惑いもありましたが、なにより、妻がよく笑うようになったのです。
現在クリニックでは、7名のスタッフとともに運営にあたっていますが、経営に関することは母体がしっかりしてくれているので不安もなく、週4勤務の週がほとんど。子どもの成長を自身の目で見ることができ、最近では、子どもたちからの誘いも増えたように思います。
医師が、勤務時間や勤務地を見直すメリット
自身が求めるものにもよりますが、収入より勤務時間や勤務地を優先するとQOLを上げられる可能性があります。
とはいえ、「収入を減らしてまで、勤務形態を見直す必要があるのか?」と考える方も多いはず。これは頭のどこかに、「収入とQOLは比例する」という考えがあるからかもしれません。
内閣府が行った調査「人々の幸福感と所得について」を見ると「世帯年収が高いほど、幸福感が高くなる傾向がある」と記載があります。しかし、ここで注目したいは「世帯年収と幸福感」として記してある、年収1000万以上の幸福度です。
年収800万以下の人にくらべ、年収1000万以上の人の幸福度は大きくなるものの、それ以上になると幸福度はあまり変わりません。
むしろ統計上は、年収1400万以上の人より年収1200万~1400万の人のほうが、幸福度が高く、年収1000万~1200万の人のほうが、さらに幸福度が高いという結果が記載されているのです。
収入と引き換えに自由な時間や場所を失うとなれば、満足できなくなるのは当然のことかもしれません。「収入」は、とてもわかりやすい自身の評価ですが、ある程度のところに達すると、今度は「お金で手に入るもの」では満足できなくなるようです。
また、希望とは異なる転勤も考えものです。環境の変化が数年に一度あるとなれば、それがストレスとなることも多く、お子さんがいる場合には、転勤によって家族が離れ離れになったり、家族に費やす時間が減ったりするケースも少なくありません。
ご自身の人生において、一番大切にしたいものが収入であれば、そこに時間を費やすのもひとつ。しかし、優先度が異なっているのであれば、そちらに時間を費やせる仕事を選ぶほうが賢明かもしれません。
転職という選択を考えると、これまでに積み上げてきた時間やキャリアを「手放してしまう」という感覚から、躊躇される方も多いと思います。そんなときこそ、「人生で一番大切にしたかったものはなにか」考えてみてください。
アンケート結果などを見て、ほかの医師の考えや生き方に触れると、今後の選択肢が広がります。弊社サイトでも、DtoD医師会員を対象としたアンケート「ドクターあるあるアンケート」を複数取り揃えておりますので、転職するかどうかはまた別として、ご自身の今後を考えるきっかけとなれば幸いです。
転職の主な原因となる6つの理由