スキルを活かした診療を行いたい
みなさんは現在の職場で、自身のスキルを活かせていますか。「スキルを活かした診療を行いたい」というのも転職理由のひとつ。この記事では、スキルを活かせない職場の現状や、スキルを活かした診療を行うために転職した/転職を検討している医師の声をまとめ、その内容について解説します。
医師たちが転職も考える、スキルを活かせない職場の現状
年齢と共に、体力や家族への配慮の在り方が変わり、ワーク・ライフ・バランスへの意識が強くなる医師も多いもの。これに、「『今後の医者としての生き方』がある程度定まり、『やりたいこと」や『できること』明確に定まってくると、転職という選択肢が生まれます。そのため、スキルを活かした転職は、40代50代医師に多い傾向にあるようです。
また、自身のスキルやキャリアを活かせていない現状も、転職への気持ちを強めます。弊社が行った「医師の労働環境の満足度についての意識調査」によると、長時間勤務の主な理由として考えられるものの約半数は、「診療内容の増加」や「患者様の増加」です。
診療内容が増加すると、それだけ自身の専門領域以外について扱わなければならない機会が増えます。患者サイドから見ると、総合的に診てもらえることは望ましく、病院経営の面でも良いことです。
しかし、医師が自身の専門スキルを活かすという観点から見ると、力が発揮できる環境とは言い難いかもしれません。
また、厚生労働省が実施した「医師の勤務実態及び働き方の 意向等に関する調査」を見ると、「医療事務(診断書等の文書作成、予約業務)」「院内の物品の運搬・補充、患者の検査室等への移送」など、看護師や事務職員等に分担できる業務にも、時間を費やしていることがわかります。
このほか、長時間勤務の理由のひとつとして「会議、書類作成等の診療外業務」があげられています。忙しくなれば、それだけ雑務にあたる時間が増え、ご自身の専門性を発揮する機会が減っていく……という悪循環も起きかねません。
ワーク・ライフ・バランスという側面から見た場合も、こういった環境が好ましくないのは明らかです。 これらを踏まえ、ご自身の職場をもう一度思い浮かべてみてください。そして、冒頭の質問をもう一度。「みなさんは現在の職場で、自身のスキルを活かせていますか?」
転職した/転職したい医師の声「スキルを活かした診療を行いたい」
同年代と比較すると、スキルを活かせていない
年齢 | 34 |
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性別 | 男性 |
専門科目 | 内科 |
専門医/資格 | 日本内科学会認定 総合内科専門医 |
役職 | 医員 |
所属 | 市中病院 |
年収 | 前職:1,100万 → 現在:1,200万 |
転職回数 | 2 |
現状では特定の専門外来の標榜はなく、当科では医師全員が全分野を幅広く診療しています。そのため守備範囲が広くなり、ばらつきなく多くの分野を学べるのがメリットです。
その一方で当院には、専門外の症例も数多く来院するという特徴があります。私は遺伝性の疾患をサブスペシャリティーとしていますが、ただでさえ遺伝性疾患の患者数が少なく、いまの体制だと患者が分散。そして日常診療の8割以上が、common diseaseや急性期疾患の診療に割かれています。
遺伝性疾患は早期発見で予後を改善できることも多く、自分のスキルを活かすことで早期発見や早期介入につなげたいのですが、現実問題として自分の元を受診する前に、多くの時間が経過しているケースも少なくありません。
他科に進んだ同年代の友人たちと話していると、自分のサブスペシャリティーやスキルを生かした診療で活躍している医師が増えてきていることを感じます。そして、スキルを活かすことで時間を効率的に使えている様子も伺えます。
自分の持つスキルや地域性といった要素もありますが、ワーク・ライフ・バランスも視野に入れて考えると、疑問点も多いのです。
いま勤務している病院は雰囲気も良く、直近での転職予定はありません。しかし将来的には、地域の中核的なハイボリュームセンター、もしくはまったく異なるエリアで中核的な役割を担う医療機関への転職をと考えています。
スキルを活かせる職場があったからこそ、ここまでこれた
年齢 | 51 |
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性別 | 男性 |
専門科目 | 呼吸器外科 |
専門医/資格 | 日本外科学会認定 外科専門医・外科学会指導医 |
役職 | 部長 |
所属 | 医局関連病院 |
年収 | 前職:留学先より年間3万ドル → 現在:1,700万 |
転職回数 | 2 |
少し昔の話にはなりますが、スキルとキャリアを活かして転職した当時の話をしたいと思います。私は当時、14年目の医局を離れ2年間アメリカに留学しました。
帰国後の就職先はサイト上で、ある地域のハイボリュームセンターの募集案内を見て、メールで直接応募。私の得意分野は肺癌の外科、特に胸腔鏡手術です。
医師になってから14年間のすべてを費やした呼吸器外科の経験を活かしたい、この施設で実力を伸ばして将来につなげたい、と思い応募したのです。
転職した職場は、大学の医局人事で派遣された医師と、直接応募して就職した医師が半々。大変オープンな職場で、受け入れてくださった部長の先生が定年退職されるまでの7年間務め、他の医療機関では経験できないくらいの、たくさんの手術症例を担当することができました。
このハイボリュームセンターでの臨床経験がなかったら、現在まで呼吸器外科医を続けていることはできなかったのではないか、と思います。
その後、出身大学の呼吸器外科講座が外科から独立。このときの教授は、私の初めの指導医でしたので、この教授からお誘いを受ける形で、医局に戻ることになりました。現在も、この教授にお世話をしていただき、実家に近い病院で呼吸器外科医を続けています。
人生のステージごとに自身に合った転職先に出会えたため、スキルを活かすことができ、結果それが、ワーク・ライフ・バランスに配慮した働き方につながったと感じています。
かなり以前の話で、その当時は自分の専門領域でスキルアップを目指すような就職先は自分で探すことしかできませんでしたが、現在は転職紹介サービスやエージェントの数が増え、自身の希望に沿った病院を探すことがとても容易になっていると感じます。
当時、手探りで一から就職活動をしていたことを考えれば、現在の若い先生方をとても羨ましく思いますし、自身の今後の将来設計を考えるうえでも、とても頼もしく思っています。
病院では見つけられなかったやりがい
年齢 | 29 |
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性別 | 男性 |
専門科目 | リハビリテーション・産業医 |
専門医/資格 | 未取得 |
役職 | 産業医 |
所属 | 企業 |
年収 | 前職:400万円(後期研修) → 現在:1,000万円 |
転職回数 | 1 |
自身がスポーツを続けている背景もあり、予防医学とスポーツ医学に関してのスキルには長けていると自負しています。初期臨床研修後は病院のリハビリテーション科に進みましたが、病院では自身のスキルを生かすタイミングがほとんどありませんでした。
病院でのリハビリ科医の仕事は、事務作業が多く「保険点数を稼ぐためのカルテを書くために医者になったわけじゃないのに……」と葛藤する毎日。カルテの書き方や、保険点数のために付ける病名について指摘されることが多く、本質的な体の動きを改善することについて取り組む時間がなかったのです。
理学療法士の先生にお願いをして、実際に患者さんのリハビリをできる限り見学させていただきましたが、見学すればするほど帰る時間が遅くなり、病院に泊まり込む日々。
休日にはリハビリの勉強会に参加して手技を学びましたが、それを患者さんに行うことができず、勉強しても勉強しても活かすことができない環境に、悔しい思いでいっぱいでした。
現在は転職紹介サービスのエージェントを通じて転職し、企業の産業医をしています。保健指導を中心とした業務では、トレーニング指導やリハビリ指導の場面が多くあり、スキルを生かした仕事ができています。
またこれからは、企業の業務の際、重量物の運搬などで生じる腰痛発生リスク回避などをサポートしていく予定です。
保健指導で、腰痛や肩こりの相談をいただいた際には、いままで勉強してきたリハビリ手技を実際に行い、健康に良い食事と運動の本質や考え方を伝えています。
「すごく楽になった」「初めて原因が理解できた」と声をいただき、思い切って病院の外に出たことで、ようやくスキルを生かせる仕事に出会えました。いまでは、病院では受けられなかった「感謝」が、大きなやりがいとなっています。
また、こういったやりがいを得ることは、プライベートの充実にもつながっています。いまでも日本では「なにかを犠牲にして仕事に費やすことが美徳」とされがちな風潮がありますが、スキルをしっかりと生かすことができれば、それに費やす時間も減るように思うのです。
医師がスキルを活かし、転職をするメリット
現在日本では、国をあげてワーク・ライフ・バランスについて取り組んでおり、内閣府が運営する「仕事と生活の調和」推進サイトにおいても、さまざまな提案がされています。
これによると、企業と働くものが果たすべき役割のひとつに「働き方を見直し、業務の見直し等により、時間当たり生産性を向上」と記載があります。スキルを活かした診療を行うことができれば、まさにこれを実現することができるのではないでしょうか。
医師になりたてのころは、「医者としてのスキル」というものは当然持ち合わせていません。入ってくる情報を取捨選別せず、とにかく吸収することに没頭していたはずです。
そんな日々に何年か向き合えば、それなりにキャリアやスキルが身についてきます。経験を重ねた分、向き・不向きも見えてきたのではないでしょうか。
こうして習得したことを、どんなふうに生かしていくことができるのか。これを考えたタイミングで、転職という選択肢が浮上してきます。
こういった場合の転職は、スキルやキャリアを活かすことが目的なので、ある程度自分の「向いている」場所を探すことができます。求められるスキルを持ち合わせているのですから、転職後もモチベーションを保つことができ、ワーク・ライフ・バランスへの配慮にもつながることでしょう。
可能性を広げて多くのことを吸収していた時期から、これまでに得たものの中から「大切にしたいもの」を磨き上げていく時期へ。このステージに進むために転職を選ぶのも、人生をより有意義なものにするための方法かもしれません。
現在自身の可能性を広げている最中の方も、転職を意識している方も「自分は医師としてどんな人生を送っていくのか」を考えることがあると思います。ワーク・ライフ・バランスについて考えている方も多いことでしょう。
特殊な職業である分、あらゆる方面からの意見を聞く機会は限られているかもしれませんが、自身のスキルや得意なことはなにか、ほかの医師とくらべてみるのもひとつ。自身の強み・弱みがわかっていれば、今後の医師としての方向性を検討していきやすいはずです。
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