【第3回】3つの開業スタイル
開業準備編はいかがでしたか。ここからは実体を伴う準備段階になります。
前回は「開業準備は場所探しから」ではなく、まず開業時期を決めてしまうことをおすすめしました。続いて開業のスタイルとその物件選択に話を進めます。
かなり前までは医院開業といえば「戸建て開業」のイメージでしたが、現在は「テナント開業」、「継承開業」など開業のスタイルが増え、夢をかなえる選択肢が広がっています。ご自分の理想とする医療と将来の姿を思い描き、最適な開業スタイルを決めましょう。
開業スタイル別の注意点
賃貸ならではの制約がある「テナント開業」
ひと口に開業と言っても、「テナント開業」なのか「戸建て開業」か、あるいは「継承開業」なのかで留意すべき点は異なります。それぞれにどんな違いがあるのかをよく吟味し、ご自身に合った開業スタイルを事前に模索しておきましょう。
初めて開業を志す先生方の多くが、まずはテナント開業をお考えになるのではないでしょうか。たしかにイニシャルコストが少なく、駅前や繁華街など人通りの多い場所で開業できることは“開業ビギナー”にとって大きな魅力。もし、前クリニックの設備や什器などが残されたままの居抜き物件を見つけることができれば、最も低コストで開業することができるでしょう。
ただし経営が波に乗った後、事業を拡大しようとすると少々不便な点も。テナントである以上、借り受けたスペースしか使えないため「患者さんが増えてきたから待合室を大きくしよう」などということは当然不可能です。また、ビルの管理規約上、看板などPRツールの掲出の仕方に制約があるところも少なくありません。そのため、よほどのことがなければ高層階の物件は避けた方が無難です。意外な盲点ですが「街中で目立たない」ということは、新規クリニックにとって大きな痛手となることもあるのです。また、高齢の患者さんの多い整形外科などを開業させる場合は、高層階だとなおさら不利になることは言うまでもありません。
初期投資が膨らみがちな「戸建て開業」
では一国一城の主となれる、憧れの戸建て開業はどうでしょうか。テナント開業とは違って、比較的広いスペースで間取りも自由。オーナーにとっての「理想のクリニック」を実現できます。また、クリニックがすなわち自宅ですから通勤も不要。土地・建物のための借入金の返済に苦労したとしても、ゆくゆくは資産となることも見逃せません。
良いこと尽くめのようにも思えますが、やはりご想像の通りイニシャルコストはかなりの高額になってしまいます。都市部などの人口密集地であれば当座の運転資金を含め1億円を超えてしまうことも珍しくなく、資金調達の難しさを考慮すれば、初めて開業される先生にはテナント開業よりもハードルは高くなります。「それでも戸建てを諦められない」という場合は、比較的地価の低い郊外で開業するなり、低コストで済む賃貸物件を探してみるなり、自分なりの妥協点を見つけることが必要となってくるでしょう。
譲渡に至った経緯が気になる「継承開業」
近年増加傾向にあるのが、すでに医院として経営されているクリニックを譲り受ける継承開業です。ゼロベースからの開業に比べコストが抑えられる上、開業後の業績を実績値から予測しやすいため経営リスクを軽減できます。金融機関からの資金調達も、比較的容易であると言えるでしょう。ただし、そのクリニックが手放されることになった理由については、しっかりと把握することが重要です。まったく同じ場所に開業するのですから、近隣住民に悪評が立ち経営不振に陥ったクリニックなどは避けるべきでしょう。
実際に開業準備へ入れば、いずれのスタイルを選択するにせよ、物件状況や立地環境など事前の情報収集は欠かせません。集めたそれらのデータを比較検討し、最終的に決断するのは先生ご自身です。最も理想に近い開業を実現できるスタイルはどれなのか、単なる好みやトレンドで決めるのではなく、経営理念に照らし合わせ考えてみることをお薦めします。
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