【第8回】スタッフの採用・研修
お子さんや高齢の患者さんが来院される際には、ご家族が付き添われるケースも多いものです。そのため、クリニックの評価や評判は、患者さん本人だけでなく、来院者の総合的な満足度によって決まるといえます。
来院者から良い評価や評判を得るには、クリニック運営を支える医師とスタッフの洗練されたチームワークが欠かせません。今回は、スタッフの採用から研修、開院前のシミュレーションについてみていきます。全員参加の運営意識を高めながら、開業準備を進めましょう。
1. スタッフの集め方・選び方
クリニックの運営には優れたスタッフの力が必要
もし、「敏腕ドクターさえいればクリニック経営は安泰!」とお考えの先生がいらっしゃるのであれば、すぐにその認識を変えていただく必要がありそうです。
苦労して開業にこぎ着けたご自身のクリニックとはいえ、その運営は受付や事務、看護師、助手など、スタッフたちの協力によって成り立つものだからです。とくに開業直後の不安定な時期には、彼ら・彼女ら全員が一致団結したチームワークが必要。そんな組織の一員となれる優れた人材を、開業を志す先生は見極めなければなりません。
しかし多くの勤務医の皆さん方にとって、スタッフの募集や面接は未知の領域ではないでしょうか。医療業界全体が慢性的な人材不足にある中、クリニックの長たるドクターはどうやって人を集め、何を基準に選ぶのか? 今回はその手法とポイントを紹介します。
欲しい人材によって募集方法を使い分ける
募集の手段として、多くの方が最初に思い浮かべるのがハローワークではないでしょうか。費用いらずで利用でき、経営者としては魅力的です。ただ、最近は医療業界もインターネットでの求人活動が盛んになってきており、看護師などの専門職については民間の転職サイトを利用した方が有利かもしれません。掲載費用がかかる反面、職業意識の高い人材を採用できる可能性は高いでしょう。
人件費・交通費を抑えるために、クリニック周辺地域からパートタイムのスタッフを募りたい場合は、配布エリアが絞れる折込チラシでの求人が有効です。その際はぜひ開業前のPRも兼ねるようにして下さい。一石二鳥で費用対効果が高まります。
その他にも看護学校や専門学校に募集をかける方法がありますが、当然ながら即戦力となる人材は期待できません。クリニック経営が安定した後、組織の若返りのため育成前提で採用する場合などには良いでしょう。いずれを利用するにしろ、それぞれで応募者の傾向には特徴があります。欲しい人材とマッチする募集方法を、うまく使い分けて利用して下さい。
応募書類では見えない点を面接でチェック
面接という状況の中では、受ける側も行う側もお互い緊張するもの。限られた時間で滞り無く、かつ漏れのない質疑応答を行うためには、質問事項を前もって準備しておきましょう。質問内容はことさら凝ったものである必要はありません。
自己PRや職務経歴、前職の退職理由など、一般的なもので結構です。なぜなら面接時に重要視すべきは、応募者の回答自体よりもその時の態度や印象だからです。「相手が理解しやすいような言い方を心がけているか」「仕事に対する意欲や前向きさを感じられるか」など、応募書類では見えづらい点を吟味しましょう。
また、クリニックの将来像や経営理念について、お互い意見交換をしておくことも重要です。待遇など条件面の会話に終始する面接も少なくありませんが、そのようにして採用した人材の定着率は比較的低い傾向にあるようです。クリニックになくてはならないスタッフ、クリニックとともに歩んでくれるスタッフを採用したいのであれば、医療に対する価値観を共有できることが条件であると心得ましょう。
なお、知人からの紹介などの縁故採用については、一般採用枠以上に慎重な検討が必要です。優秀な人物であることがあらかじめ分かっているなら積極的に採用すべきですが、そうでない場合も往々にしてあるはず。もし将来、何らかの問題が起こったとしても、紹介してもらった知人の手前厳しい処遇を下しづらいことも。余計なリスクを回避するためにも、縁故採用といえども人柄重視の観点は忘れないようにしておきましょう。
2. スタッフ研修と診療シミュレーション
スタッフ間のスムーズな連携に研修は必須
内装工事が終わり、真新しい院内に什器や医療機器が運び込まれてくると、とたんにクリニックとしての体裁が整ってきます。なんだかすぐにでも診療を始められるような気さえしますが、もちろんそんなことはありません。
何しろ新規に開業するクリニック内のスタッフは、ほぼ全員が初めて同士のはず。各人がそれなりにキャリアを積んできていたとしても、初対面ばかりで構成されたチームではスタッフ間のスムーズな連携は難しいものと言えます。開院までの期間にしっかりと研修や診療シミュレーションを行って、そのクリニックに応じた実践的なスキルを身につけてもらうようにしましょう。
研修のスタートは、開院のおよそ2~3週間前が良いでしょう。つまり各スタッフには、勤務開始がその時期になることをあらかじめ伝えておくことが必要です。研修期間を、医療機器や電子カルテ・レセコンなどのレクチャーを受ける時期と、実際に使用して訓練する時期に大別して、その合間に適宜ミーティングや接遇マナー講習などを行うようにすれば、研修全体の進行度合いが把握しやすいでしょう。
オリエンテーションでモチベーションアップ
また、機器の操作同様に大切とも言えるのが、スタッフのモチベーション醸成。その第一歩として、研修初日のミーティング時、先生方にぜひ行っていただきたいことがあります。それはスタッフ全員を集めてのオリエンテーション。開業に対しての思いや経営理念、診療方針などを、院長である先生自ら説明なさって下さい。
たとえこういう機会が苦手で思ったように話せなかったとしても、熱意さえ伝わればこれからのクリニック運営がやりやすくなるはずです。また、スタッフにそれぞれ自己紹介をしてもらうのも忘れずに。院長先生だけが一方的に喋る会にならないよう気をつけましょう。
また、ちょっとした備品や消耗品など、どれを選んでもそう大差ないようなものについては、製品の選別をスタッフの皆さんにまかせてしまっても良いでしょう。小さなことに思えるかもしれませんが、何でも院長が決めてしまうクリニックに比べ、運営への参加意識が高まるものです。
実践力を鍛える診療シミュレーション
研修の最終仕上げとなるのが模擬診療、いわゆる診療シミュレーションです。知人や出入り業者の中から有志を募り、患者役として受診してもらいましょう。窓口での受付に始まり、問診票記入・診察室への誘導・カルテ作成・レセコン入力・会計と、実際の診療時に沿って“通し稽古”を行う中で、実践力の不足した点が見えてくるはずです。例えば、患者さんの名前をどう呼ぶのか? 院長の名前は? 初診と再診での受付・案内手順の違いは? 保険証を忘れた患者さんがいたら? などなど、初歩的なだけに曖昧にしていた約束事が意外とたくさんあることに気づくでしょう。
一通りシミュレーションが終わったら反省会を開き、スタッフ間の連携や患者接遇、機器の取り扱い、必要備品等について確認することも重要です。シミュレーションを繰り返せば、診療の流れはどんどんスムーズになっていきます。全体を通す時間がなければ気になるシーンのみでも結構ですし、患者役を集めるのが難しければスタッフの代役でも構いません。一度と言わず二度三度と診療シミュレーションを行い、より洗練されたチームワークを目指して下さい。
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