【第10回】広告と内覧会
クリニックの開院が目前になると、患者さんがどのくらい来院されるか、経営者でもある医師としての不安もつのります。開院の時点で競合となりえる既存のクリニックに加えて、新たなクリニックが近くに開業する可能性もあります。
今回はインターネットなどの効果的なプロモーションを考えます。また「内覧会」は地域の人たちとの最初のコミュニケーションチャンスです。スタッフも交えてご出席の皆様との会話が弾めば、クリニックの良好なイメージが醸成されます。心のこもった内覧会で開業に弾みをつけましょう。
1. プロモーションは戦略的に
集患のためにはプロモーション活動が必要
クリニックの内装工事やスタッフの手配、諸官庁への各種手続きなど、開業の準備が着々と整ってくるに従って、先生の心配事は「予想した数の患者が来てくれるだろうか?」「開業の時だけ繁盛したとしても、その後も続くだろうか?」といった集患への悩みに移っていくことでしょう。
これらを解消する大きな手段となるのがプロモーション、つまり宣伝活動です。今は一昔前とは異なり、開業しただけで患者が集まる時代ではありません。クリニック増加による競争激化のため、大なり小なりのプロモーションは必須。医療業界に特化した広告代理店もあるほどです。
とはいえ勤務医として現場で診療に当たってきた先生方にとって、プロモーションという活動自体が少々縁遠い領域ではないかと思われます。その手段一つとっても、チラシやリーフレットやホームページ、看板に電柱広告、公共交通機関のアナウンス…などなど実に様々。患者が集まるか心配だからといってあれもこれもと闇雲に手を出していては、大切な資金を無駄にしかねません。
ではこれら数多くのプロモーション手法を、どう使い分けていけば効果的なのでしょうか。
費用対効果を上げるための「3つの狙い」
プロモーション手法は数あれど、その狙いは大きく次の3つに集約されます。「開業告知のため」「クリニックへの誘導のため」「継続的なPRのため」です。これら3つを目的意識としてきちんと自覚することでプロモーションのターゲットが明確になり、無用なコストの削減に繋がります。
例えば「開業告知」を狙うのであれば、新聞への折込チラシやリーフレットのポスティングなどが適していますが、この場合ターゲットは近隣住民。配布エリアを周辺地域に絞り込むことで、折込料金やポスティング料金、印刷費をその分抑えられるでしょう。
また「クリニックへの誘導」には電柱広告や駅張り広告が効果的ですが、こちらのメインターゲットは主に徒歩圏外の患者です。少々離れた地域からの来院を想定し、最寄りの駅やバス停からの導線上に限定して広告を掲出するようにしましょう。そして3つ目の「継続的なPR」。これにはインターネットの活用が不可欠です。
インターネットの優位性を上手に活用する
食事に行くときのレストランや、旅行の際のホテルの例をあげるまでもなく、医療業界もまたインターネットが持つ集客力を無視できません。特に若い世代になるほど、ホームページなどを調べた上で受診するクリニックを決める、という傾向が見られます。若者でなくとも、「より腕の良い医者を探したい」「より専門的な診断を受けたい」などの希望がある患者であれば、ふさわしいクリニックを見つけるためにネット検索するのはもはや当然とも言えるでしょう。
このようにインターネット上に開設するホームページは、ターゲットの年齢も居住エリアも幅広く、プロモーションとしての重要度は高まる一方です。定期的なメンテナンスは必要ではあるものの、一度サイトを作ってしまえばランニングコストは比較的安価なツールですので、3つめの狙い「継続的なPRのため」には持ってこいと言えるでしょう。
また最近ではFacebookやTwitterなどのSNSを積極的に利用するクリニックも増えてきました。ホームページに掲載するようなかしこまった情報だけでなく、院内の日常や、先生・スタッフの人柄が伝わる出来事などを発信することで、クリニックの親しみやすさもアピールできます。慣れないうちは更新するのが手間ではありますが、集患への可能性を大きく秘めており、検討に値するツールと言えるでしょう。
2. 内覧会は目的を見定めて
内覧会の出来が開業後の経営を左右する
最近では新規開業するクリニックの多くが、正式なオープンの前に内覧会を開いています。勤務医時代からお世話になっている恩師や先生方、開業をサポートしてくれた関係者各位、友人・知人たちを招き、感謝の気持ちを込めてクリニックをお披露目する…という意味合いもありますが、その最大の目的はクリニックのPRです。
先生やスタッフにとって内覧会は、初めて地域住民の方々と直接コミュニケーションをとれる機会。その町へ新参者としてデビューするわけですから、少しでも良い印象を持ってもらう必要があります。もし不幸にも内覧会が失敗に終われば、実施にかけた時間やコストが無駄になるばかりか、クリニックの悪い評判まで流れかねません。開業直前に大きな痛手を被るのか、それとも快調なスタートダッシュの足掛かりになるのか…。その分岐点はどこにあるのでしょうか。
一つひとつの施策に目的はあるか
試しにインターネットを検索してみれば、「効果的な内覧会をプロデュースします」という謳い文句のコンサルタント業者を数多く見つけることができるでしょう。そこには告知チラシのデザイン/配布にはじまり、景品の用意に院内の飾り付け、医療機器の説明用フリップ制作、ときには来院者のお子さんをあやす遊具の準備まで、さまざまな内覧会用の施策が掲載されているはずです。
その賑やかで本格的なイベントぶりに、思わず「これで立派な会になる!」と考えてしまいそうですが、大切なのは表面的なイメージではなくその根本にある目的です。つまり、それら一つひとつの施策が「地域住民への認知・浸透」「良い口コミの誘発」「開業前予約の確保」「開業後の安定集患」などの目的をきちんと意識したものであるか、が重要なのです。
内覧会の計画立案をコンサルタントに依頼する場合は、「提案された各々の施策は何のためにやるのか?」に注目してその要不要を判断なさって下さい。もちろんこの考え方は、業者に依頼せず自前スタッフのみで行う内覧会でも同様です。業者サイトに掲載されているモデルケースを、形だけなぞった空虚な会にしてしまわないよう、目的意識を持ってプログラムを組んでいきましょう。
来院者それぞれの声に耳を傾ける
実はもう一つ、内覧会には非常に大切な目的があります。お気づきになられた方もいらっしゃると思いますが、先ほど列挙した目的はすべて「クリニック側の目的」でした。たしかに会を催す主体は先生およびスタッフなのですから、クリニック側の視点に立つのは当然と言えば当然です。しかしふとその視点をずらしてみると、内覧会に来てくれる大勢の来院者側にもそれぞれわざわざ足を運んだ目的があるはずです。
ある方は「病気のことを優しく説明してくれる先生だったらいいな」と考え訪れたのかもしれませんし、ある方は「○○の症状について詳しい先生がいるかも」と思ったのかもしれません。あるいは「待ち時間の少ないクリニックだと助かる」という人もいるでしょう。これら来院者達の思いを感じ取ろうともしない先生・スタッフばかりのクリニックは、開業早々に危機を迎えるはずです。内覧会を催している間は“将来の患者さん”一人ひとりの声に耳を傾ける姿勢を、決して忘れることのないようにして下さい。
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