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【第6回】クリニックの設計

開業を検討し始めた頃から想い描いていた、診療室や待合室のレイアウト、用途ごとの断片的な空間イメージが、設計段階でクリニックの全体構造に組みあがります。この回では「患者さんの心地よさ」と、「施設の使い勝手の良さ」をキーワードに、開業後に後悔しないクリニック設計の基本構想と信頼できる施工業者選定を考えます。

クリニック設計の基本構想と業者選定

設計の基本構想は患者目線で

「クリニックは自分の理想を追求した設計にしたい!」という意気込みは、開業を検討なさっている先生ならお持ちでしょう。苦労して一国一城の主となるわけですから、そのお気持ちは当然です。ですが経営的側面から見ると、クリニックは患者さんのための施設でもあります。訪れる人が安心して診察を受けられる、快適な空間づくりを念頭において、設計の基本構想を固めていきましょう。

設計の基本構想は患者目線でのイメージ

では具体的にどこに気を配れば、クリニックを安心・快適だと思ってもらえるのでしょうか。もちろん患者さんの男女比・年齢構成によって多少の違いはありますが、どんな場合でも「ここだけは」と優先すべき場所があります。それは、診察室でも処置室でもなく、待合室。リラックスできるようゆったりしたスペースを確保し、柔らかい光と暖かみのある色調でまとめることが肝心です。待合室全体が見渡せる位置に、オープンカウンターの受付を設置するのも良いアイデア。コミュニケーションがとりやすく、患者さんの安心に繋がるでしょう。なにしろ待合室は、外来患者が一番多くの時間を過ごす空間。ご自身が患者になったつもりで、心地よさを考えてみて下さい。

トイレの快適さにも気を配るのが経営者

患者目線で設計を考える際、もうひとつ重要な場所があります。往々にして後回しにされがちですが絶対に必要なスペース、すなわちトイレです。ここの印象如何で女性患者のリピート率が左右されるとも言われており、意外に気の抜けない場所なのです。とはいえお金をたっぷりかけて、ことさら豪華にする必要はありません。男女別であることは言うまでもないですが、清潔感の感じられる洗面台やミラーに、温水洗浄便座やベビーベッドなどの設備を用意し、全体が落ち着いた色調であれば良いでしょう。車椅子でも利用しやすいよう、できれば広めの個室も用意しておきたいところです。

トイレの快適さにも気を配るのが経営者のイメージ

たしかに待合室もトイレも、一見医療と直接関係のない場所に思えます。「ここを重要視するのは本末転倒ではないか」と感じられる先生もいらっしゃるかもしれません。ですが、「クリニック経営も、突き詰めればお客さま商売である」という考え方もまた、経営者としては必要な覚悟です。成功のための医院設計には、“患者ファーストの精神”で望みましょう。

“表も裏も”得意な業者をコンペで見つける

実際の設計自体は設計士、または設計業者に依頼することになりますが、その選定の際は、ぜひ複数業者による競合コンペを行って下さい。一社に限定した(さらにそのことを相手側に伝えている場合の)見積り価格は、どうしても高くなる傾向があるからです。そもそも初めての開業の場合、一社からの見積りでは、提示された金額が相場に比べて高いのか安いのかすら判断できません。全幅の信頼を寄せている設計士をすでにご存知であれば別ですが、先に開業されている先輩や、開業コンサルタント、融資を受ける銀行などに相談し、見積りを作成してくれる業者をいくつか紹介してもらうようにして下さい。

“表も裏も”得意な業者をコンペで見つけるのイメージ

ただし競合させる業者については、医療機関の設計実績があることを条件にするべきです。一般住宅や商業施設と違い、医療機関の設計は経験が物を言います。各部屋の適度なサイズ感や、患者・職員の動線把握など、機能性に関する知見が実際の使い勝手に大きく影響してくるからです。先にお伝えした待合室やトイレが、患者の目につきやすい“表面”の設計だとしたら、この医療施設としての使いやすさに関する設計は“裏面”。両面ともに満足のいく設計をしてくれる業者を見つけることも、コンペの目的のひとつと心得ましょう。

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